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2008-12-21

第21期竜王戦第7局

初代永世竜王を賭けた第7局は世紀の一戦といっても良い。渡辺竜王が5連覇で獲得するか羽生四冠が通算7期で獲得するか。羽生の場合は他のタイトルを合わせて史上初の永世七冠となる。

第3戦までは羽生が怒濤の3連勝。大局観の違いを見せつけたという印象がある。このままあっさり奪取すると思いきや第4戦からは渡辺が3連勝。第6局の後、15日に行なわれた第2回朝日杯でも両雄は対局しており、これも渡辺の完勝で、渡辺は実に対羽生戦竜王戦の3連敗後の4連勝ということになる。

さて世紀の一戦の目撃者になるべく2日目は速攻定退し帰宅した。18時過ぎに観たBS中継は77手目の局面だった。羽生優勢と判断したが、BS中継が終了する19時には渡辺優勢に思えた。形勢が二転三転する熱戦になった。

本局は振駒で羽生先手となったが、後手渡辺の作戦は第6局同様の急戦矢倉だった。手を変えたのは羽生で△5五角と5筋の歩を角で交換した時に▲7九角ではなく▲2五歩とした。これに対し△3三銀と飛車先の歩交換を拒否したが、突っ張った指し方だ。急戦矢倉なので△5四銀くらいが相場だが、渡辺も趣向で応えた。
そして戦いは思わぬところから始まった。図は▲7五歩△同歩としたところ。こうなると次の手は明白だが、普通はあり得ない場所から戦火が開かれた。

後手:渡辺明竜王
後手の持駒:歩二 
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・v金 ・ ・v玉v桂v香|一
|v飛 ・ ・ ・ ・ ・v金 ・ ・|二
|v歩 ・ ・v歩v銀v歩v銀v歩v歩|三
| ・v角 ・ ・ ・ ・v歩 ・ ・|四
| ・v歩v歩 歩 ・ ・ ・ 歩 ・|五
| ・ ・ ・ 銀 ・ 角 ・ ・ ・|六
| 歩 歩 ・ 金 ・ 歩 歩 ・ 歩|七
| ・ ・ 金 ・ ・ 銀 ・ 飛 ・|八
| 香 桂 ・ 玉 ・ ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:羽生善治四冠
先手の持駒:歩 
【手数=36 △7五同歩 まで】

ここから▲8六歩△同歩▲8二歩△7三桂▲8一歩成△5二飛▲9一とと進んだ。
▲8六歩が継続手で、こう指せば桂か香は取れる形ではある。しかし2歩損していることと、戦っている場所が悪すぎる。ということで先手の選択肢としては「ある手」ではあるが、「指し難い手」でもある。
形勢は互角だろう。個人的には陣形は乱れるものの、得した香を5九に打つ手(少し後に実現)の味が良いので先手を持ちたい。

少し進んで下図。5五の銀を▲6四銀としたところ。5九の香が素通りになった。味の良い手だ。しかし先手陣も△8七歩成を見せられて忙しい。

後手:渡辺明竜王
後手の持駒:歩四 
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
| ・ ・ ・ ・ ・ ・v玉v桂v香|一
| と ・ ・ ・v飛 ・v金 ・ ・|二
|v歩 ・v桂v金 ・v歩v銀 ・v歩|三
| ・v角 ・ 銀 ・ ・v歩v歩 ・|四
| ・ ・v歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・v歩v銀 ・ ・ 角 ・ ・ ・|六
| 歩 ・ ・ 金 ・ 歩 歩 ・ 歩|七
| ・ ・ 金 ・ ・ 銀 ・ 飛 ・|八
| 香 桂 ・ 玉 香 ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:羽生善治四冠
先手の持駒:歩二 
【手数=57 ▲6四銀 まで】

ここから△6二飛▲5二香成△同飛▲6三銀不成△5一飛▲2三歩△4二金と進んだ。
渡辺ブログによると、

2日目に入って、ほぼ読み筋通りに進みましたが55手目▲6三歩成〜59手目▲5二香成と踏み込まれるのを軽視していました。ここで悪くなったと感じました。
とのことだ。
飛車を追って、▲2三歩は手筋で退路の封鎖だが、△4二金とされると継続手が難しい。▲2三歩では▲5二金も有力視されていたが、あっさり△2二玉▲5一金△8七歩成とあっさり飛車を見捨てる手がある(※)。
▲2三歩に関しては、渡辺ブログでは、
羽生名人が63手目▲2三歩を長考している時間は▲2三歩と▲5二金のどちらでも悪そうなので、さすがにまずいのではないか、と思っていました。
と振り返っている。

少し進んで、冒頭の77手目の局面。ここから数手はBS中継でリアルタイムで観戦している。
6二と6三の金銀が無骨だが、飛車さえ奪ってしまえば良いという一環の流れが感じられる。一目後手優勢と思うがどうなのだろう。

後手:渡辺明竜王
後手の持駒:銀 歩五 
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
| ・ ・ ・ ・ ・ ・v玉v桂v香|一
| と ・ ・ 金 ・v金 ・ ・ ・|二
|v歩 ・ ・ 銀v飛v歩v銀 歩v歩|三
| ・v角 ・ ・ 香 ・v歩v歩 ・|四
| ・ ・v歩v桂 ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・v歩 ・ 金 ・ 角 ・ ・ ・|六
| 歩 ・ ・ ・ ・ 歩 歩 ・ 歩|七
| ・ ・ 玉 ・ ・v金 ・ 飛 ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:羽生善治四冠
先手の持駒:銀 
【手数=77 ▲5四香 まで】

ここから△6二角▲5三香成△同角▲6一飛△4一香▲5四銀成△3五角と進んだ。
△6二角▲5三香成△同角までは必然だが、ここでどう指すか。先手は飛車を奪って当初の目標をクリアしたが、後手は今まで働いていなかった角が好位置に移動した。
本譜の▲6一飛は△4一香とされて飛車による攻めにも関わらず後手玉は若干安定し、直ぐに行く手段がなくなった。
ここは、▲2二銀として△同銀▲同歩成△同玉▲2三銀(取ったら詰み)△3一玉としてからこのタイミングで▲4八飛と落ちている金を取るのが良かった(※)。
そこで▲5四銀成として6五の桂を龍で抜いて自陣の安全度を高める方向にシフトチェンジした。これに乗じた形で△3五角としていよいよお荷物の角を捌いた。

角が手駒になると桂を外す▲6五飛成は△8七角から王手飛車のラインである。本譜もそのように進んで、もうどちらが勝っているか分からなくなってきた。
下図はその△8七角に対し▲6七玉としたところ。先手変調というのは間違いなさそう。

後手:渡辺明竜王
後手の持駒:金 銀 歩五 
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
| ・ ・ ・ ・ ・v香v玉v桂v香|一
| と ・ ・ ・ ・v金 ・ ・ ・|二
|v歩 ・ ・ ・ ・v歩v銀 歩v歩|三
| ・ ・ ・ ・ 全 ・v歩v歩 ・|四
| ・ ・v歩 龍 ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・v歩 ・ 金 ・ 歩 ・ ・ ・|六
| 歩v角 ・ 玉 ・ ・ 歩 ・ 歩|七
| ・ ・ ・ ・ ・v金 ・ 飛 ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:羽生善治四冠
先手の持駒:角 銀 桂 
【手数=89 ▲6七玉 まで】

ここから△6五角成▲同金△6九飛▲5六玉△6四歩▲6六角と進んだ。
飛車を取られるとやはり△6九飛が厳しい。後手優勢か?
△6四歩は渡辺らしい筋の良い手だが、▲6六角の返し技があった。これでまた分からなくなった。
渡辺ブログでは、この辺りをこう振り返っている。

88手目△8七角と王手竜取りがかかっては逆転かと思いましたが95手目▲6六角があまりにもピッタリの手でまた逆転。ここから1分将棋で、祈るような気持ちで指していました。

ただ、BS中継観戦中▲6六角はリアルタイムで予想できたので、この局面なら第一感級の手だと思う。

この辺りでBS中継は時間切れになってしまった。両者時間も切迫しており、勝負はもはや指運次第といった模様を呈してきた。
少し進んで下図。後手は△7三金と待ち駒をして手を預けたのに対し、▲2二角△3二玉▲1一角成としたところ。
△7三金は下駄を預けた手だ。これに対し、▲1一角成はまたしても手番を後手に渡すが、こちらは勝ちに行った手と言える。

後手:渡辺明竜王
後手の持駒:金 銀 歩三 
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
| ・ ・ ・ ・ ・v香 ・v桂 馬|一
| と ・ ・ ・ ・v金v玉 ・ ・|二
|v歩 ・v金 ・ ・v歩v銀 歩v歩|三
| ・ ・ ・ ・ 全 ・v歩v歩 ・|四
| ・ ・v歩 玉 ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・v歩 ・ 角 ・ 歩 ・ ・ ・|六
| 歩 ・ ・ ・ 桂 ・ 歩 ・ 歩|七
| ・ ・ ・ ・ ・v金 ・ 飛 ・|八
| 香 桂 ・ ・v龍 ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:羽生善治四冠
先手の持駒:銀 香 歩二 
【手数=105 ▲1一角成 まで】

ここから△5五歩▲2四飛△6四歩▲5五玉△4四銀打▲同成銀△同銀▲同馬△6五金▲5四玉△6三銀▲4五玉△4四歩▲同角△3三桂と進んだ。
将棋は最後に間違えた方が負けるゲームである。それが▲2四飛だ。指された時は既に先手優勢の雰囲気だった検討陣からも「決め手」という声さえあった。
しかし、本譜の様に玉を追われると1一の馬は消えさらに6六の角も消されそうだ。△3三桂に▲同角成は△同桂が逆王手になるため取れない。
今度こそ形勢がはっきりした。

140手におよぶ熱戦の末、初代永世竜王は渡辺竜王の手に。歴史の一頁が刻まれた瞬間をネットを介してだが立ち会えた。

渡辺は3連敗後は開き直って戦っていた節がある。これがプラスに作用したのは間違いなさそうだ。
永世竜王まで5連覇の相手には森内九段、佐藤棋王も含まれており、羽生世代を一網打尽にした格好になっている。棋界初の大逆転劇(●●●○○○○)のおまけ付きだ。
しかしながら永世竜王がB1級ではなんともバランスが悪い。早くA級に上がって、さらには他のタイトル獲得も果たして欲しいものだ。時間の問題とは思うがなるべく早く。

一方の羽生、3連勝した時は誰がこのような結末を予想しただろう。第17世永世名人も森内九段に先を越されたが、またしても永世タイトルを先に持ってかれてしまった。
第4局といい本局といい、羽生ならば勝ちきるだろうと思われた将棋を落としているのが気になるところだ。来年早々には王将戦で王位戦で争った深浦王位との防衛戦が待っている。

文中の(※)は12/20のBS囲碁将棋ジャーナルに出演していた羽生四冠自身!の解説より。

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